ですから、一番大切な要素の絞り込みが必要なのですが、その前提として、組織に発生している問題を可能な限り網羅的にピックアップしていかなければなりません。ここでは数が必要ですので、可能な限り多くの問題を抽出します。その中からしっかりと優先順位をつけていくのが絞り込みです。
なぜ新たな施策や戦略は定着しにくいのか
施策・戦略が定着しない理由①
〜指示が多すぎて絞り込みができていない〜
あなたの会社でこんなことはないでしょうか。営業現場の例ですが、まずお客さんのヒアリングをしっかりやれと指示が出ます。その2時間後、新規のアプローチをしないとダメだと言われ、さらに2時間後には新規のサービスのアイデアを出せ、果ては、もっとしっかり挨拶しろと指示が下りてくる――。
朝令暮改とは言いません。いずれも大切なことですから。しかし立て続けに指示が出ると、部下の人たちは、いったい何から始めたらいいのかと戸惑います。複数の指示を一度に実施しようとすると消化不良になって、どれ一つ成果を出せなくなるのです。
施策や戦略が定着しない最大の理由がここにあります。つまり、多くのテーマを一度に実施しようとすることです。
ほとんどの会社は常にさまざまな課題に直面しています。
- 営業フローをこう変えなければけないのでは
- 組織はこんなふうにした方が機能的で成果も出やすいのでは
- 社員の目標設定はこうあるべきだろう
- マネジメントはもっとこうしよう
こうした課題は全て、解決をしていかなければいけない重要な課題ばかりです。しかしながら、施策が走りすぎると、前述のような戸惑いと消化不良が広がるだけです。それを避けるのが、「課題の絞り込み」です。
組織や社員は基本的に、一つのことでもなかなかできないものです。繰り返し繰り返し体に染み込ませて、ようやくできるようになるのです。その一つが難しいことであったら、3つも4つも言われたりすると、余計にできるわけがありません。
ですから、一番大切な要素の絞り込みが必要なのですが、その前提として、組織に発生している問題を可能な限り網羅的にピックアップしていかなければなりません。ここでは数が必要です。その中から優先順位をつけていくのが絞り込みです。
この優先順位のつけ方がしっかりできていないと、次々に施策・戦略が指示・命令として下に降ろされていくわけです。こうしたことが続いて部下が消化不良になると、実行力の乏しい組織ができ上ってしまうのです。
施策・戦略が定着しない理由② PDCAのC(チェック)をないがしろにしている
消化不良になるポイント、実行力の乏しい組織の悪しき習慣となっているのが、PDCAが機能的に回っていないことです。
P=Plan(計画)
D=Do(実行)
C=Check(点検、評価)
A=Action(改善、処置)
PDCAは業務を効率よく行うやり方で、これを繰り返すことで継続的に改善が進められます。PDCAがうまく回っている組織では、次のようなサイクルができあがっています。
PDCAが回っている状態
P=Plan(計画)
経営トップや管理職が必要な計画を立てるD=Do(実行)
社員に目的、意義、プラン内容をしっかりと伝える
C=Check(点検、評価)
プランが実行されているか、経営にとってプラスになっているかを検証する
C=Check(点検、評価)
プラスになっていなければ計画を練り直して再度チャレンジか中止する
A=Action(改善、処置)
プランが定着もしくは中止された時点で次の改善もしくは課題へ進む
施策・戦略だらけの組織の一番の問題は、PDCAのうちCが抜け落ちてしまっていることです。チェックが抜けると、言いっぱなしの組織になってしまいます。
施策・戦略が定着しない理由②
〜言いっぱなしが上司の威厳を失わせている〜
言いっぱなしの組織の本当に怖いところは、実は戸惑いや混乱ではありません。上司や経営幹部の威厳がどんどんなくなっていくことにこそあります。威厳がなくなれば、当然指示は徹底されません。
例えば、あいさつをしなさいという指示が出たとします。部下は、2、3日は励行するけれど、4日目にはしなくなってしまう。でも、上司はあいさつの励行に続けて2つも3つも指示を与えていますので、何も言いません。あいさつをしろという指示を出したことすら覚えていないかもしれません。Cがまったく抜けてしまっている状態です。指示を遂行しなくても何のお咎めもなかったら、当然元に戻ってしまいます。
これを繰り返していくとどうなるでしょう。上司の言っていることは言葉だけ。嵐が過ぎれば忘れ去られる程度の〝気まぐれ指示〟なんだと部下は思うようになります。これでは上司の威厳など保てないことはお分かりいただけるでしょう。
その結果がどうなるかというと、部下の間に不平不満が充満し、やる気も向上心もを失い、組織はガタガタになっていくのです。
子どものしつけのシーンで例えてみましょう。子どもがとても行儀が悪く、手で食べてしまうのをお母さんがやめさせたいと思ったとします。以下のような会話は一般的なのではないでしょうか?
「手で食べると、もうご飯をあげないよ」
「5秒以内に手で食べるのをやめなかったら、ご飯はなしだからね」
「5、4、3、2、1。はい5秒たったよ」
「本当になしになるからね!!」
上記のような会話で、実際に子供が手で食べるのをやめなくても実際に食事を取り上げられることが無い場合があります。つまり、口で言っていることと実際が異なるのです。
この場合、子供が手でご飯を食べるのをやめないケースは、ご飯が下げられることがないと分かっているからです。口で言うだけで、それを3回、4回と繰り返してもやめることはないでしょう。言葉は悪いですが、お母さんは子供になめられてしまっているのです。すると、もっと重要なことをお母さんから言われたとしても、言いつけを聞こうとはしないし、重要なことなのだという認識すら生まれないでしょう。
会社に置き換えて考えてください。上司や経営幹部は、これがいいと考えたプランをメンバーにl共有します。しかし、その一つずつが中途半端でチェックもされず、何のフィードバックがないというような状態が続くと、毎回上司から指示される課題を部下は重要なことだという認識を持って、真剣に取り組むでしょうか。
むしろ、「また言ってる」「どうせ大して考えないで思い付きで言ってるんだろう」という受け止め方をするでしょう。すると、重要性の認識も上司に対する尊敬の念も希薄化していくだけです。ガミガミ言ってるだけのお母さんになってしまうのです。
施策・戦略を定着させるためのステップ
(1)やるべきことに優先順位をつける
上司の威厳を損ない、部下のやる気を失わせるような組織になったら、その責任は上司にあります。毎日のように指示だけを出して何のチェックもしない上司や経営幹部に責任はあるのです。決して指示を守らない、実行しない部下にあるわけではありません。
もしそんな組織になっていると思われたら、プランだけが飛び交いチェックをしていないのではないかと考えて見直してください。改善のポイントはプライオリティ、優先順位をつけていくことです。
言うだけの組織では、この優先順がつけられないのです。なぜかというと、打ち出す施策も戦術もみんな大事なことだからです。
✓お客様にヒアリングして、お客様の声に耳を傾けよう
✓部門間で連携をとろう
✓部門ごとのリーダーが話し合いをする機会をつくろう
✓新商品の開発をどんどん進めていこう
✓メンバーから意見を吸い上げよう
✓メンバーに経営参加してもらおう
✓会社のビジョンをみんなに浸透していこう
どれ一つとして、企業としてないがしろにしていいものはありません。だからこそ、順位付けが必要なのです。1、2、3、4・・と順位をつけて、上からいくつをやるかを決めなくてはならないのです。部下は天才ではありません。3つのことを言われて3つとも、5つのことを言われて5つとも見事にやりきるなどということはあり得ないという前提を持ってください。その順位付けをするのも、上司や経営幹部の責任です。
(2)優先順位1番から始める
順位をつけたら、最初は優先順位1番から始めてください。何が最も重要かということをしっかり判断することが大切なのです。
さらに大切なのが、既に述べたようにPDCA、特にチェックを怠らないことです。それが施策の効果を測る大前提なのですから。指示したことがきちんと1カ月後、2カ月後にもできているかを踏まえてこそ、次に進む意味があるのです。
施策というのは、実行されてこそ効果が出ます。効果が出る施策は必ず続いていきます。継続させることに上司がコミットし、責任を持ってやっていくのです。その際のチェックのポイントは
✓今どういう状況なのかを把握する
✓良い効果が出ているのか、それともマイナスの事態を引き起こしているのか見極める
✓続けるべきかやめるべきかを決断する
✓改善すべき点があればどのようにしていくか判断する
こうした作業を一つずつ進めていくことで、プラン、施策、戦略は完遂できたという状況になるのです。実施ができて初めて効果の検証ができます。だからこそ、言いすぎてどれもが中途半端な実施で終わってしまうようなことは避けなければならないのです。一つの指示に半年かけてでも、組織に根付かせていくことが大切です。
ステップ
組織の問題点を網羅的に洗い出す
ステップ
対応策を考えて、優先順位をつける
ステップ
優先順位1番から一歩ずつ確実に取り組みを始める
ステップ
一定期間後に、実施状況と成果を点検評価する
ステップ
成果が挙がり、定着していると認められたら次の策に取り組む
↓↓↓
繰り返すことで企業力がアップする
(3)長い目で評価する
もう一つ、評価をする際に気を付けなくてはいけないのは、決して短時間の物差しで評価してはならないとうことでう。どんな指示でもどんな状況であっても、新しい指示は1週間や2週間は守られます。なのに、次々に指示を出すものだから、できていたこともできなくなります。
3年後、5年後、10年後を見越した施策・戦略を一つずつ実施していきましょう。ウサギとカメのカメでいいのです。着実に一歩ずつ組織を改革して成長させる施策を打ち続けている組織が、最後には本当の実力をつけます。矢継ぎ早に指示を出す組織というのは、結局は何も変わっていかないのです。
組織に必要なのは実行力、継続力です。できないことの責任を部下に押し付けないでください。一つ一つの検証は、上司や経営幹部が自ら行うことが、重要なポイントなのです。