最適の教育方法とは
〜万能な教え方はあり得ない〜
教育や指導の際によく言われるのが年代論です。「自分たちの時代は、怒られながらの仕事が当たり前。それに対して何くそと頑張ったから育ったのだ」「今の若い連中は叱られ慣れていないから、ソフトに当たるべきだ」などという会話は、サラリーマンが集まる居酒屋のあちこちで交わされているはずです。
当たっていないこともないかもしれませんが、そもそもそのように一律に考えることが間違いです。最適な教育方法は相手によっても、組織の目標によっても、あるいは組織の風土によっても異なるものなのです。ノウハウ本で紹介されるテクニックにも、いい面も悪い面もあります。
たとえば、押しの弱い人がいたら、なるべく押しを強くするための指導をしなければいけませんし、押しが強すぎる人にはやさしさや気配りの大切さを説かなければならないでしょう。人によって教えることは違うのですから、万能の教育方法が知りたいという人は、しっかりと相手を見ることができていないということでもあるのです。
教育の目的は相手を成長させること
では、どうやって教育方法を見つけるか。一番のポイントは、教育方法などというものは与えられるものではなく自分自身で開発するものだということです。テクニックを知るのはいいのですが、それを真似ても意味はないと思ってください。それらは教育方法を考えるうえでの一つのヒントにすぎないのであって、自分で作り出してこそ、生きた教育が行えるのです。
その際に考えるべきは、どのようなアプローチをすれば、相手が本気になって成長するのかという点です。教育は自分のために行うものではありません。あくまで、相手を成長させるためのものだということを忘れないでください。
最適な教育方法=常に開発し続けていくもの
教育に必要な4つの要素
相手に会った教育方法を見出すうえで必要なことを具体的に考えていきましょう。私は以下の4つがポイントだと考えています。
- 相手が何を考えているかをつかむ
- 質よりも頻度を重視すべし
- 逃げずに相手に正面から向き合う
- 結果に向き合う
- 相手の思考の先にあるものを把握する
たとえば、報告書を作る際、いつも同じ部分の数字を入力し忘れる部下がいたとしましょう。何度言っても改まりません。そんなとき、発想を変えるのです。単なるうっかりミスではなく、この数字を入れないのには何か彼なりの理由があるのではないか、と考えてみるのです。もしかしたら彼は、その数字に意味はないと考えているのかもしれません。
彼なりのそうした理由を認めろというのではありません。しかし、理由が分かればアプローチの仕方も変わってきます。なぜその数字が必要かを説いて納得させればいいわけです。
つまり、何かをさせることを優先するより、相手が何を考えているかをつかむことが、教育の第一歩ではないかと思うのです。
教育するのに、1回1回のクオリティにばかりとらわれて、みっちり時間をかけて行うのと、機会あるごとに何度も何度も言うのとでは、どちらが伝わりやすいかというと、やはり後者でしょう。長い時間こんこんと教え込まれても、かえってウザいと思われかねません。また、同じ失敗をしたときに注意したりしなかったりということがあったら、ミスをしたという自覚が生まれなくなる恐れがありますから、その都度、指摘すべきなのです。
何度も大切なことを伝えるためには、コミュニケーションの頻度も高めなければなりません。そのことによって心を通い合わせるのです。「遠くの親戚より近くの他人」というように、何年も会わなかった親友より、毎日顔を合わせている友達の方が、気持ちは通じやすいものです。心が通い合うと、素直に受け入れてくれるようにもなってきます。
企業理念や組織として大切にしていることなど、特に大切なことはしっかりと向かい合って、伝え続けない限り本当の意味で伝わらないのです。
相手の欠点や間違いに気づいても、言いにくいなと思うことはけっこうあるものです。言ったら嫌な顔をされそうだ、嫌われそうだ、関係が気まずくなるのでは、などと思ってしまうからです。でも、相手のことを思うなら伝えた方がいいに決まっています。
そんなときこそ目を背けず、相手にとにかく向き合うことが大事なのです。任せるのと逃げるのとは違います。きちんと判断してこれは相手に任せようと決めて言わないのなら、それも向き合っていることになりますからいいのですが、言いづらいなと思って伝えないのは逃げているのです。それは避けましょう。
相手が間違っているのに気づいて、間違いを正したり考え方を教え込んだりした場合、それで相手の行いや言葉が変わったかをしっかり確認しなければいけません。フォローするのが言った者の責任で、言いっぱなしではダメです。
相手にきちんと伝わっていれば、正しい方向に変わるでしょう。しかし、変わっていないとしたら、伝え方が悪かったのかもしれません。あるいは、伝わっていながら相手の言動が変わらないとしたら、別の教育の仕方を考えなければならないのです。伝えて終わりでは、教育が完全な自己満足に止まってしまいます。
以上の4点をまとめれば、相手とコミュニケーションを重ね、相手の気持ちを理解してあきらめずに向き合うということです。教育においてはこのことが重要で、実践できてくると、最適な教育方法が分かってくるようになります。
言い換えれば、最適な教育方法とは、ノウハウやテクニックについて情報収集したうえで、相手と一緒に創り出していくものなのです。