なぜ営業力は上がらないのか
(1)営業のテクニックがわかっていないことが最大の問題点
私が営業の立て直しを依頼された会社のトップの方の多くは一様に、「営業力が弱いので売り上げが上がらない」と言われます。しかし、その際の「営業力」とは何を指しているのでしょうか。営業力アップを考える際のポイントの一つは、具体的に営業力のどこが弱いのかを知ることにあります。
✓営業マンのモチベーションが低い
✓営業のテクニックを知らない
✓製品・サービスの質や表現が悪い
売り上げが上がらない営業上の問題点は、大まかに言ってこの3つの因子に分解できます。そして、大半の経営幹部から聞かれるのが、モチベーションが低い、売る気がない、ガッツがないといった言葉です。では、モチベーションが上がれば、モノは売れていくのでしょうか?
結論から言いますと、多くの問題は営業マンのモチベーションではなく、営業の教育の問題つまりメンバーが営業の基礎的なテクニックが分かっていないところにあります。いろいろな会社から相談を受けてきた私の経験上、90%以上がそうだと言えます。
(2)経営幹部の思い込みが精神論をはびこらせる
では、なぜ営業のテクニックが身に着かないのでしょうか。それは、経営幹部のメンバーへの「やる気がない」という思い込みが邪魔をしているのです。考えてみてください。やる気がないとかモチベーションが低いとか言われて、何をどうすればいいのか分かるものでしょうか。これらの言葉は、経営幹部の漠然としたいら立ちを表しているだけの、ぼんやりした言葉なのです。
売れない営業マンにはいくつかのタイプがあり、強みや弱みはそれぞれ違うはずです。ところが、先の言葉はどのポイントにも当てはまるようでいて、弱点を強化するためには何の役にも立たないのです。
営業マンのマイナスポイントを、営業の現場に即して考えると、次のようなことが挙げられるでしょう。
✓お客さんのヒアリングがしっかりとできていない
✓毎日のテレアポや飛び込み営業などアタック回数が少ない
✓見積もりを出した後のクロージングが悪い
これらはいずれも営業のテクニックにかかわる問題点です。一方で、やる気がないという一言もまた、すべてに当てはまってしまいます(私たちはこのことを言葉のマジックと呼んでいます。)。そこがポイントです。そう言われた営業マンは、「やる気を出さなくては」「よし、頑張ろう」と思うかもしれません。しかし、肝心のテクニックに視点を据えないものですから、どの部分のテクニックが欠落しているのかが全く見えない組織になってしまいます。もちろん、本人は問題点も解決策も分かりません。
(3)「ぼやっとマネジメント」が営業をダメにする
単純にやる気がないという精神論が社内に蔓延するのはなぜかと言うと、部下に「やる気を出せ」と口を酸っぱくする管理職、例えば営業部長が、経営幹部にも営業不振の原因として営業マンのやる気のなさを挙げて説明するからです。
すると経営幹部らからは、俺たちは昔こんな風に売ったぞ、死に物狂いで売って回ったなどという檄が飛びます。それを聞いた営業マンはなおさら、やみくもに頑張ろうとします。でもテクニックがないわけですから、いくら精神論をぶち上げても売れるはずがありません。その結果何が起こるかというと、モチベーションの低下です。
それだけではとどまりません。自分の能力のなさを一度は認めても、いくらやっても売れないとなると、今度は商品が悪いから、価格が高いからと責任転嫁を始め、売れないことを会社のせいにするようになるのです。お客さんのクレームに対応できる組織作りができていないといったこともやり玉にあがるかもしれません。
結局、経営陣や上司は営業を見てダメだと言い、営業マンは上司や開発部門、あるいは管理部門を見てダメだと言い始めるわけです。お客さんの方を見ている人がいなくなってしまいます。だれもが内向きにお前が悪いと言い合っているような会社の製品を買いたくなると思いますか? 同業他社より強い会社になれますか?
以上の説明を図示すると下のようになります。
よくある流れ
営業成績が上がらず、売り上げが低迷
よくある流れ
原因を「やる気の無さ」と決めつけて尻をたたく
よくある流れ
営業マンが頑張っても売り上げにつながらない
よくある流れ
営業マンのモチベーションが低下する
よくある流れ
営業マンの不満が製品や社内組織に向かう
よくある流れ
会社全体のモチベーションが下がり、競争力を失っていく
そうした負のスパイラルに陥っている会社というのは、かなり多いです。問題点をピンポイントに指摘して改善しようとしないやり方を私は「ぼやっとマネジメント」と呼んでいます。「ぼやっとマネジメント」がはびこる会社では何が起きるか。例を挙げましょう。
お客さんへのコール件数やアタック件数が足りず、全然アクションを起こせていないA君がいるとします。上司や先輩は「営業は気合がないと売れないぞ」「人生かけて売るんだ」などと尻をたたくでしょう。A君も、それらの言葉が自分に当てはまらないことがないわけではないと思って、頑張ろうとします。
しばらくすると上司はA君に「しっかりやっているか」と言ってきます。A君は「頑張っていますが、まだ成果は出ていません」などと答えます。そこには、具体的な数値を元に、A君に合った戦略戦術を話し合う姿はありません。
こうしたやり取りは、クロージングが弱いB君も、見積もりの出し方が下手なC君も、お客様からのヒアリングができないD君に対しても同じことです。「ぼやっとマネジメント」の弊害が、営業力の弱さとなって現れ、売り上げ低迷につながるのです。
営業力を上げるために
(1)営業の流れの中で弱点を洗い出す
では、どうすれば的確なマネジメントができるのでしょうか。営業の流れに沿って分解して考えましょう。※こちらに記載する営業フローはあくまでも例であり、商材や営業方法によってこちらのフローは大きく変化いたします。
ステップ
営業の最初のアクションは、テレアポであれば電話、ルート営業であればお客様のもとに顔を出すことです。こうしたファーストコンタクトで大切なのは数です。量をこなさないと成果につながりません。
ステップ1
ファーストコンタクトが済んだら次はヒアリングです。基本的な情報から、お客様の潜在的な課題までしっかりと把握していくことが求められます。
ステップ2
ファーストコンタクトおよびヒアリングからお客様とのつながりができれば、今度はプレゼンテーションです。お客様にどれだけ商品の説明をしたかということです。その内容と回数が見積もりの提示につながります。
ステップ3
ヒアリングをベースとした質の高いプレゼンテーションでしっかりと興味を喚起できたら、見積もりをさせていただくチャンスをいただけます。お客様から求められそうなプラスアルファの見積もりもしっかりカバーします。ここでは特に提出までのスピードが大切になります。
ステップ4
見積もりを出してもそれで受注が決まるわけではありませんから、成約に向けてクロージングを打ちます。最後の押しの一手と言ってもいいかもしれませんが、相手の反応や性格を見極めた的確なクロージングが受注に結び付きます。
営業の流れポイント例(まとめ)
1、ファーストコンタクト:量を増やす
2、ヒアリング:全てを漏れなく聞く
3、プレゼンテーション:ニーズにはまった強い提案を実施する
4、見積もり:パターンとスピードを重要視する
5、クロージング:最後の一押し
おのようにまずは自社の営業のフローをしっかりと確定させて、上記のフローに照らし合わせて会話をしていくことがとても重要なのです。例えばA君の営業のウイークポイントを考えると、それぞれの課題が見えてくるでしょう。
A君の営業課題
✓ファーストコンタクトの数が少ない
✓プレゼンテーションがうまくできない
✓クロージングができずに、見積もりを出したまま待つだけ
単なる気合の問題がとても具体的な課題になりましたし、A君にも共通のフローと言葉を使って説明をしたら、「自分は全てが悪いわけではなく、〇〇と〇〇ができていないから、改善すればいいんだ!」と瞬時に理解ができるわけです。
また、この中でも、例えばプレゼンテーションが苦手な人は、ヒアリングができていないために有効なプレゼンテーションができないのか、あるいは競合優位性を話せていないためなのかなど、さらに具体的に課題点をつきつめていくことができるわけです。
だからこそ、まずは自社サービスの営業の流れをポイントごとにしっかりとまとめていくことが必要となります。営業の流れとポイントを上司が整理できていなにのに、メンバーにしっかりとした教育をできるわけがないのです。
(2)改善点を絞り込む
そして、課題点を明確することとともに大切なのが課題の絞り込みです。複数の課題を一度に突きつけてしまうと成長は著しく遅れてしまいます。例えば、上記3つすべてできない人がいるかもしれません。そんな人に対して、あれもこれも注意してはだめです。上司が重視すべきは、最も川上の部分です。つまりファーストコンタクトの数が上がるようにマネジメントすることです。
先ほどのA君がそうだとすると、例示するとこうなります。
- 「営業の成績が上がっていないね。このままだと目標に届かないよ。どこを改善したら売り上げが上がると思う?」と聞いてみます。すると、A君からはいろいろな答えが返ってくるでしょう。
- 営業というのは、「ファーストコンタクトがあってプレゼンテーションにつながり、プレゼンテーションがうまくいけば見積もりが出せて、クロージングがうまくいくと売り上げにつながる」という営業の流れを理解させます。
- そのうえで、「目標を達成するにはどこをどうすればいいかを一緒に考えよう」と話を改善方法に向けていきます。
- 営業の流れを改めて説明されると、A君も自分がどのステップでも十分な取り組みができていないことが分かります。といっても、いきなり全部直すなどは無理なことですから、まずはファーストコンタクトの数を増やそうということになります。
- そこで具体的な数値目標をあげます。1週間で電話だったら何百本とか、ルート営業だったら何社に顔を出すというように。するとA君は、じゃあ明日は何件やればいいのかを考えます。目標がどんどんクリアになっていきます。
(3)営業力アップはステップバイステップで
いかがでしょうか。かつては「ぼやっとマネジメント」で「気合いだ、やる気だ」と言われるだけのA君でしたが、このようにきっちりフレーム分けしてテクニックを教育されると、目の前がパッと開けた感じになると思います。自分に何が足りないかが具体的に自覚できるようになるのですから、目標もさらに具体的になるのです。
すると、どのように営業力を改善させていくのかというシナリオを自分で作り、コンタクト回数などの単純な数字で上司に報告できるようになります。
それまでの上司も決して悪気があったわけではないでしょう。ただ、A君のいろいろな欠点が見えるたびに叱咤するものですから、A君としては何をやったらいいのか分からなくなってしまっていたのです。「とにかく頑張る」だけで、できていなかったことができるようになるわけがありません。
あたかも、ちゃんと食事ができない3歳児が、「座り方が悪い」「食べる順番が悪い」「お箸の持ち方が悪い」「食べながらしゃべったらダメ」「服を汚さないように食べなさい」などと次々に言われるようなものです。これでは何をしたらいいのか分かりません。まずは、イスにちゃんと座ろうねと言うことです。ちゃんと座ればぼろぼろこぼすことも少なくなるでしょう。そのようにして、一つ一つ改善されていくのです。
あるいは、ボウリングが苦手で好きになれないとしましょう。なぜ苦手意識を持つのかというと、テクニックの基準値が分からないので、自分がコントロールできないからです。感覚がフィットすれば高得点が出るけれど、感覚だけでは高得点は続きません。言ってみれば運任せです。つまりテクニックの問題点が分からないから、どうすれば高得点が出るかがつかめない。だから、モチベーションが上がらず、面白くないとなるのです。
これは営業マンにも通じることです。自分がダメなんだということは分かるけれど、どうしたらいいのかが分からない。すると、たとえラッキーで売り上げが上がったとしても、モチベーションのアップにはつながりません。
(4)テクニックマネジメントが経営を変える
話を営業力の弱い会社に戻しましょう。説明してきたように、そうした会社には共通したパターンがあります。「ぼやっとマネジメント」で、気合論を振りかざして営業マンにただ発破をかけ続けるということです。裏を返せば、営業のテクニック不足に陥ってしまっているのです。
営業マンが弱い、現場がダメだといって突き放していては、何も改善しません。それどころか、前述したように社内の犯人探しが始まり、空気も悪くなるでしょう。求められるのは、「ぼやっとマネジメント」から「ロジカルマネジメント」への転換です。それだけで営業マンは育ちます。モチベーションも確実に上がりますから、売り上げ増にもつながり、経営力の強いいい組織に生まれ変わります。
営業力の強化とか社員教育とかは、会社全体の目線と体質を変えてしまうほど、大切なものなのです。営業の教育体制を変えるだけで経営自体がぐっとよくなる。そういうことが非常に多くあることを理解してほしいですね。