ヒアリング能力を向上させることのメリット
まず、ヒアリングによって何がもたらされるのかを考えてみましょう。ヒアリングのメリットには、次の4つのポイントが挙げられると思います。
- 知りたい情報が入ってくる
- その情報によって行動の質が上がる
- 情報によって相手に喜んでもらえる
- 成長が加速される
ビジネスにとって情報はものすごく大事なものです。いつの時代でもそうだったのですが、情報が瞬時に行きかう現代において、その重要性はますます高まっています。しかし、本当に自分にとって必要な、役立つ情報というものは、自ら求めなければ入ってきません。
情報はネットでも得られますが、営業現場では、目の前にいる人の情報が必要となってきます。モノを売るためには、相手が何を求めているのか、好みはどんなものか。それらは、相手に聞いてこそ得られる情報です。
また、情報は行動に生かしてこそ意味があります。その行動は情報の種類や精度、具体性がどこまであるかなどによって変わります。いい情報、たくさんの情報を持っているほど、正しい行動がとれる可能性は高まります。逆に言えば、営業のシーンでしっかりしたヒアリングができていないということは、本質的なオキャ客様の立場に立てていないということでもあります。
ニーズを聞き、どう思っているのかといった相手の情報がしっかり確認できれば、相手が喜ぶパフォーマンスができます。逆に、勝手に思い込んでの押し付けであったり、相手の気持ちを汲まない行動をとったりすると、その行動はマイナスの効果を生むだけでしょう。
そして、何よりも、ヒアリングができれば自分の成長が加速されます。聞くことは相手の気持ちや考えを自分事化することにつながります。相手の思いを知り、必要な情報が得られればパフォーマンスが上がり、それが成功体験の積み重ねになっていきます。成功体験は成長につながります。
多くのビジネスマンはヒアリング能力が低い
さまざまな効果をもたらしてくれるヒアリング力ですが、実は、ヒアリング力の低い人はいっぱいいるというのが現実です。私もたくさんの人を見てきましたが、もともとヒアリング力が高い人というのはなかなかいないと思っています。その背景には、日本人特有の国民性やメンタリティがあるように思えます。
ヒアリング能力が低い、一番大きな理由が、聞くのが恥ずかしい、聞くことは悪いことで、相手に嫌われるんじゃないかと勝手に思い込んで、聞くことを躊躇してしまうということです。
販売や営業では、商品を買ってもらおうとしたら、その商品のプレゼンテーションをします。いろいろな説明をして商品の魅力を伝え、相手を買う気にさせるべく一生懸命訴えます。そこまではだれでもできます。そのあとが問題なのです。
最後のお願いとも言うべきクロージングがなされるべきなのに、それができない人が多すぎます。プレゼンテーションが終わったら、「じゃあ、よろしくお願いします」「検討してください」で終わってしまうのです。
ここで終わったら、上司にどう報告するでしょうか。相手の反応のよかった点ばかりに目を向けて、「多分いけると思います」と楽観的な結論を伝えようとするのではないですか? そもそも聞いていないのですから、判断材料がないのに。その結果、商談が不調に終わったら、「見込みが違った」で片づけてしまいがちです。
聞かないとチャンスを逃す
これに対して、ヒアリング力の高い営業マンはどうするかというと、プレゼンテーションを終えて質問があれば質問に答えた上で、最後に「購入可能性のヒアリング」を実施するのです。
「以上が説明となりますが、ご購入の可能性はいかがでしょうか?」
こう聞くことが、新たな出発点になります。購入してもらえる可能性があるとわかったら、なぜその気になったのかが聞けます。そうしたら、お客様のニーズがより明確につかめます。逆に、可能性がないとなったら、なぜなのかと尋ね、もし誤解があったら埋めていくチャンスをもらえます。「ご検討をお願いします」で終わったら、巻き返しのチャンスすら失ってしまうわけです。
聞けない2つの理由
聞いた方がいいことは、だれもが分かっているはずです。では、なぜ聞けないのか。国民性とは別に、実践的に聞けない理由には2つのポイントがあります。
✓聞くこと自体を悪いことだと思ってしまっている
✓具体的な聞き方が分からない
たいていは、このどちらかです。プレゼンテーションをした直後に「買ってもらえますか?」などと聞くのは、あつかましい、後ろめたい、悪いことなんじゃないかという気になってしまうのです。
聞くときにどんな言葉を使ったらいいのかが分からないというのは、先輩からもだれからも、ほとんどそういう問いかけをするのを聞いたことがないからです。
では、聞くのが悪いなと思う人、どう聞いたらいいのか分からない人が、上司から発注の可能性を確認してこいと言われて聞こうとしたら、どんなふうに問いかけるでしょう。
「以上で説明は終わりなんですが、あのー、なんかちょっと聞きにくいんですけれど、あのー、発注なんかですね、あのー、なんか大丈夫だったりしますかね。購入は、ど、どうですか?」
まるでおびえたような言葉になってしまうでしょう。そんな言葉は、相手に詐欺話であるかのような感覚を与えてしまいます。相手にいい心象を与えるはずがありませんから、「まあ、検討しますので」という言葉で遮られます。この商談は、これでジ・エンドとなる公算大です。
ヒアリングの実践例
聞くことは相手の立場に立つこと
まず、聞くことはまったく悪いことではないと思わなければなりません。なぜなら、聞くという行為は、相手の立場に立つことなのです。相手のために聞くのです。その点を肝に銘じたうえで、具体的な聞き方を想定してみてください。
シーンごとに、適切な聞き方を例示してみましょう。
「ご購入はいただけそうでしょうか?」
購入してもらえそうなときは、相手がいいと感じた部分を掘り下げて聞くことで、納品のときにその部分をさらに強化して、お客様により喜んでもらえる可能性が生まれます。 購入が難しそうなら、なぜ購入してもらえないかを伺い、もしその点について説明できるなら、リカバリーのチャンスを得られます。
「今後の参考にさせていただきたいので、解約の理由を教えていただけますでしょうか」
解約する人がいれば、それはチャンスなのです。解約の理由が分かれば、サービスの改良につながりますし、解約を防止できる可能性もあります。こういったヒアリングを積み重ねるか積み重ねないかで、個人の成長も組織の成長も大きく変化していくのです。
「どうすればご契約いただける可能性がでてきそうでしょうか?」
この問いかけに対して「何しても無理」と言われてしまったら別ですが、「こういうプランがあったら契約するんだけどな」などという言葉が返ってきたら、受注の可能性が広がりますし、本質的なニーズは見えてくるのです。
「改善のために、今回のサービスで悪かった部分を教えていただけますでしょうか」
悪い点というのは、なかなか聞きにくいものですが、聞きにくいと思っているから聞きにくいだけなのです。自分のため、会社のためだけではなく、お客様の利益に繋がる可能性があるのが多くのヒアリングです。自信を持って決めた通りの言葉で聞きましょう。
POINT・聞くべきポイントで決してスルーしない
・ストレートに問いかける
・今後のサービス改善につながるチャンス=お客様のためと自信を持って聞く
聞かないから成長できない
これはお客様に対するときに限らず、同じ会社の部門間でギクシャクしたときにも適用できます。
- 営業が製造のことも考えずに無理な注文をとってきたとき
「我々はこう思っているけど、営業はなぜこんな注文をとってくるのですか? 一度話し合いましょう」
相手の状況や考えを聞いて、そこから手を打っていくきっかけにすればいいのです。相手の情報をヒアリングすることで、自分もより良いパフォーマンスが出せて、成長できるのです。
- 新卒1年目で、すごく成長したいと思っているメンバーがお手本にしたい、どんな業務も高いレベルでこなせて人望も厚くかっこいい先輩がいるとき
「先輩のようになりたいのですが、どうすれば先輩のように成長できますか?」
みんな聞かないから、成長の仕方が分からないのです。先輩は、聞かれたら絶対に答えてくれます。こんな風に聞かれて嫌だと思う先輩はいないでしょう。ですから、こんなことを聞いたら変な人に思われるのでは、気分を害されるのではなどと思うのは、ヒアリングに対する間違った想像です。
✓聞くことはお客様のためである
✓怪しい詐欺師にならない
✓聞き方をしっかり準備して聞く
ヒアリングが上手な人というのは素直な人です。相手の気持ちや情報を知ってから行動を起こそうとする誠実さを持っているのです。素直で誠実であることが、成長する大きな要因です。しっかり準備をして聞けば、すべてのパフォーマンスの質が高くなるのです。
ちゃんとヒアリングができる人というのは、何も聞かない人、聞かずに自分の流儀で解決しようとする人に対して、10年後には大きな差をつけているでしょう。聞くことで、どんどん情報がたまっていくのですから、言ってみれば、本を読む人と読まない人との差のようなものです。
ヒアリングが上手な人が多い組織は強いです。成績も上がり、活気に満ちています。そういう組織をつくるためには、聞き上手な人をほめるようにしてください。ヒアリング上手な人を表彰したり、いろいろな形でスポットライトを当てたりするのも、組織としてはいいことだと思います。